佐藤さん家の日常

その6

 除夜の鐘が鳴り、年が明けた。
 え。前も似たようなことがなかったかって? だいじょうぶ。これはサ○エさん形式だから。だから作者のお達しがない限り、僕らは永遠の十七歳。ぴっちぴちでいいでしょ。
「明けましておめでとう」
 コタツに入ってテレビを見ていると、後ろから声がした。
「今年もよろし――何」
「なつくんが僕にあいさつしてる」
 衝撃だった。
「普通にしてるだろ」
「してないよ」
 感動だった。
 しないよ。するにはするかもしれないけど、大抵は僕が先だから。あったとしても、必ず何かの報復があるから。
「今年は何かいいことありそうな予感」
「そんなわけがない」
 なつくんの突っ込みは相変わらずだった。
「雑煮ができたから呼んでこいって母さんが」
「なつくんは何やってたの?」
「課題」
 なつくんの真面目さは相変わらずだった。
「なつくんはテレビ見ないの?」
「目新しいものはないだろ」
「父さんたちは?」
「さっきまで一緒にテレビ見てた。今もらぶらぶ」
 そう言うと、なつくんは興味なさそうにドアを閉めようとする。
「――って、何この手」
「せっかくだからなつくんものんびりしようよ」
「一人でくつろいでろ。俺にはやることがある」
 同じ顔なのに、なんでこんなに違うかなぁ。もう少し肩の力を抜いたっていいのに。
 顔を合わせるたびに思うけど、そこは付き合いの長い相棒のこと。余計なお世話だって怒られそう。だから、いつもの行動を起こすことにした。
「じゃあ僕とらぶらぶな時間を」
「過ごそうとは思わない」
 無下にされた。
「そんなこと言わずに」
「そんなに怒らせたいか」
 泡や一触即発(一方的にだけど)になりそうなその時、
「じゃれついてないで、二人とも早く来なさい。お雑煮が冷えちゃうでしょ」
 天の声によって一喝された。
「俺は別に」
「そうそう。僕も今行こうと――」
「いいからとっとと来なさい!」
『……はい』
 二人そろってうなずくと、お母さんはぱたんと扉を閉めた。
「お母さんって、間違いなく大沢の家系だよね」
「間違いなくもなにも、伯父さんの妹だから当然だろ」
 顔を見合わせ二人ため息。こういうところは自然と似てくるものらしい。
「父さんの血が入ってないわけじゃないけど、おまえって明らかに母さん似だよな」
「失礼な。僕だって立派な佐藤家の一員よ?」
 そりゃあ、僕も少しは思うけど。
 強引かつマイウェイなお母さんと、僕から見てものほほんとしているお父さん。この二人が一体どうやってくっついたのか息子からしても非常に気になるところ。
 母親の後姿を見る視線も、二人なぜか同じものだった。

 お雑煮食べて、またテレビ見て。車に乗って毎年のごとくじいちゃんの家へ。
「お正月ってあんまり変わりばえしないよねぇ」
「変わってほしいのか」
「目新しいものがないっていったのなつくんでしょ」
 後部座席でたわいのない会話がひろげられる。
 見慣れた景色も、時間がたてば過去になってしまうのかな。
 ふとそんなことを考えた。
 隣を見れば十七年見知った顔がそこにある。だけど、これだって今だけの話。時がたてば、どうなってしまうかわからないんだ。僕も夏樹も。
 だからといって、そう簡単に付き合いを終わらせるつもりはないけどね。
「春?」
「たまにはのんびりまったりするのもいいよねぇ」
 除夜の鐘聞いてテレビ見て。家には四人しかいないけど、これはこれで味があるってもんでしょ。
「少しくらい、お兄ちゃんさせろよな」
 小さなつぶやきは果たして聞こえたかどうか。
 実は、僕にも決めた道がある。内緒だけど。
 夏樹がやりたいことはうすうすわかってるつもりだ。目標を持って努力してるのはすごいと思う。口にはしないけど、そういうところは尊敬してるのです。
 だったら、僕は僕で自分のやりたいことを見つけるしかない。じゃないと、お兄ちゃんとしてのしめしがつかない。
「勉強がんばれよな」
「それはこっちの台詞」
 小さな声で会話をしていると、ほどなくして目的地に着いた。
「むこうはきてるみたいだよ。二人とも早く」
 のんびりしたお父さんの声。こうして家族ほのぼのするのもいいってもんでしょう。夏樹には夏樹の道があるように、僕にも僕の道がある。のんびりまったりしながら、これからのこと考えていくとしましょうか。
「昇とまりいが来てる。お前も早くあいさつしてこい」
 二つ返事でうなずくと、従兄弟のもとへ足を進めた。

 そんな感じで僕らの一日は過ぎていく。
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくね。
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